以前のエントリーで丸ビルの巨大空間をカメラに収めたい、ということからパノラマ写真について興味を持った。これがもうめちゃくちゃ自分のツボにヒット(笑)
Webを調べてみるとやはりパノラマ写真の魅力にハマっている人もたくさんいるようだし、いろいろなソフトもあった。フリーのものやトライアル版など10近くのソフトを試してみた。
それぞれ一長一短があって、写真の繋ぎ方がまったくなっていないものや、繋いでも明暗や色相が一致していなくてモザイク状になるもの、あるいは一々手動で繋ぐポイントを指示してやらないといけないものなど、いろいろだ。必ずしも有料版が優れているわけでもなかった。
まず、パノラマソフトのキモは何といっても「stitching」という作業で、文字通り「縫い合わせること」なわけだが、画像を勝手に判断して違和感なく繋ぎ合わせるということは素人が考えても非常に高度な処理が必要だと思われる。
パースを変形させてラインを上手に繋ぐのはもちろんのこと、明暗や色の調子まで合わせなければならない。この部分のアルゴリズムが各ソフトの腕の見せ所なのだが、どれを使っても似たり寄ったりではなく、ソフトによって非常に優劣があった。
その他、魚眼レンズの画像を扱ったり、結合後にQuickTimeなどで見られるmovファイル(カーソルでぐりぐり動かせる)を吐き出せるか、などということもあるのだが、この部分はまた別のエントリーにしよう。
驚異のアルゴリズム!
さて、いろいろ試していて、驚くべきソフトに出会った。
「AutoStich」である。フリーのデモバージョンだが、とにかくすごい。これを使ったらもう他のソフトは使う気になれないほどだ。
何しろ、繋ぎたい写真を適当に選べばいいだけ。ワンボタンで全部やってくれる。繋がらない写真が入っていてもかまわない。勝手に除けてくれるのだ。
繋がれた画像は常に100%完璧、というわけではないが、私がいろいろ試したうちではこれ以上にうまく繋いでくれるソフトは無かった。これがフリーとは・・・自分の写真に対するスタンスが変わったぐらいである。
制限事項としては、残念ながらWin版しかない、ということ、jpeg画像しか扱えないということ、360°パノラマ画像には対応していないということなどがある。
「AutoStich」はブリティッシュコロンビア大学のAIラボによる研究成果で、下記ページからダウンロードできる。下記ページを見るにはjavaをonにする必要がある。
「AutoStich」ダウンロードして解凍したらフォルダをドライブ:Cの直下などに置くこと。というのはこのソフトは日本語のパスが全く通らないのだ。
Winではデフォルトで「デスクトップ」などとカナ表記になっているので、デスクトップ上に置いてもうまく動作しない。
これは画像を選択する場合も同様で、日本語下のフォルダにある写真はいくら選択しても「Please select 2 or more images」と出てしまう。なので、繋ぎたい写真はAutoStichフォルダの中にあるimagesフォルダやさらにその中にあるtestフォルダにコピーなどしてから選択するとよいだろう。
またもう一つ注意する点がある。結合した画像をpano.jpgという名前で生成するのだが、元画像と同一フォルダに自動保存するので、何度も使うときは先に作ったパノラマ画像の名前をリネームしておかないと上書きされてしまう、ということだ。
他、詳しい使い方を説明されている方がおられたのでリンクを張っておく。
MAGMAGPHOTOS設定などあれこれする必要もほとんどない。弄る点はEdit画面の左上のOutputサイズぐらいだろう。結合後の大きさがどれくらいにしていいか分からない場合は3つめのScale(%)を選べばよいだろう。デフォルトでは10%になっている。これは元画像のサイズにもよるが、たくさん繋ぐととんでもないサイズになってしまうからだ。
まずは小さめで試してみて、物足りない場合には少しずつ増やしていけばいい。マシンの能力にもよるが、大きな画像をたくさん繋がせると、当然ながら処理に時間がかかる。
複数の画像を選択して「開く」ボタンを押したとたんにもう処理が始まる。進行状況をゲージで表示する「Status」画面が出た後、黒いDos窓が開いて、キャレット(入力ポイント)が点滅するが何もしないで放っておけばよい。
画像が生成されると自動的に既定に設定してあるビューワーが立ち上がって画像を表示してくれる。なんとも簡単なのだが、そこに現れる画像に目を奪われることだろう。
★今回のエントリーの画像は200kb~400kb超と大きいので開くときはご注意ください。
「東京国際フォーラム」
GW中にSICFに行った帰り、東京国際フォーラムに立ち寄った。大好きな巨大異空間であり、これをパノラマにしてみたい、と思ったのである。
「東京国際フォーラム」は存在そのものが奇跡的でさえある。なんせ、このガラスの巨大空間は無駄と言えばこれほど無駄なものもないわけで、今だったら建設不可能に違いないからだ。まさにあのバブルのころだったから建てることができた時代のモニュメントであろう。さすがに東京都も税金の無駄遣いとの批判を浴び、2003年に第3セクターに譲渡して今は「株式会社東京国際フォーラム」となっている。
これほど異常な建築物なのに回りの建物に隠れてランドマークにさえなっていないのがなんとも間抜けである。
外観がきれいに見えるのは唯一、外堀通り沿いの東京消防庁訓練場あたりからの光景か。(これは左右2枚の合成)

外観を鍛冶橋通り側から見たところ。(これで14枚位)

この距離では普通では広角レンズを使ってもこんな写真は撮れないと思う。下のほうの車や樹木の葉の揺れが自動的に処理されて消えている。
中に入ってみよう。
北側の入り口から入ってすぐの所。(約12枚)

ちなみに元画像と比べてみるとAutoStichのすごさが分かる。



ブルーで囲まれた人物は削除された方々(笑)。正面右側のロン毛の人の左足が消えているのが破綻部分としては目に付くところだが、他はさほど気にならない。人物と背景をほぼ完璧に区別していることに驚く。
もっとすごいのは画面左側のオレンジで囲んだ人物の合成である。カップルに白い上着を着た人が重なっているが、白い上着の人がちゃんと手前側になっている。単に大きな人物像は手前という判断なのだろうか?いったいどういうアルゴリズムがこんな判断をさせるのだろう?
同じく北側入り口を少し進んでB1部分を覗いた所。(約20枚)

周囲が随分変形してしまった。
ちなみに同じ画像を縦1列だけ別のソフト(「Panorama Maker 3 」パナのデジカメに同梱されているソフト)で繋いだのが次の写真(約8枚)。

こればかりはPanorama Maker 3の方が見やすい。Panorama Maker 3は360°のパノラマ写真を造るアルゴリズムを持っているためか、繋がり方が素直なようだ。ただし、一列の幅でないと繋げないし、繋がり部分には破綻も目立つ。
対して、AutoStichは二次元平面上に広がるパノラマ写真を作るので、画面をトポロジカルに歪めてでも数学的に正しい繋がり方?を選択する傾向があるようだ。
スロープを登った中央からガラス壁面側を臨む。(約30枚)

圧巻である。船の形は逆方向に歪められているが、まさに記憶にある見え方と言ってもいい。
パノラマ写真を作っていて気づいたのは、パノラマ写真こそ、記憶の心象イメージに近い写真だということである。
写真というものは当然ながらレンズの正面方向にパースの消失点を構成して風景を2次元に写し取る。人間の目もレンズを使っている限り、網膜に映る画像は同じ原理であるのだが、人間は目や首を動かすことによって消失点を常に移動させ、脳で画像を認識する際には、3次元の空間として把握する。
じゃあ、動画を撮れば同じだということになるが、動画は記録されたイメージを再確認する際に大きな欠点がある。それは自分の好きな部分を見られないということだ。(いずれAdobeあたりが再生しながら好きな部分をパンして見られるような「パノラマ動画システム」を開発することだろう。)
そこでパノラマ写真なわけだ。30枚の画像を合成したとしたらその画像には基本的に30方向の消失点が含まれていることになる。画面に入りきらないぐらいの大きなパノラマ写真を作ってマウスで移動させながら好きなところを見ていると、まさに自分が見てきた風景を再生しているかのようなイメージが得られた。これは今までにない体験だった。
このブログでは500kbの画像しかアップできないのが残念だが、雰囲気は伝わると思う。(そのままだと縮小したデータを使ってもすぐに幅5000ピクセルとかになってしまう。)
撮影した元画像の1枚1枚の写真は680x480ぐらいの小さなものである。大きな写真だと処理するのがたいへんなのでリサイズしてからソフトに読み込ませなければならない。
例え200万画素のしょぼいデジカメでも30枚集まったら6000万画素というとんでもないデータ量となる。
撮影時に注意する点をあげると、レンズ位置をできるだけ固定することと、ズームを固定しておくことだ。特にズームレバーはつい動かしがちなので注意が必要だ。焦点距離が違う画像はさすがのAutoStichでも破綻してしまう。
さらにスロープを登って反対の南側中段から(約30枚)
真中ごく僅かにデータが欠けたので手でざっくり処理。

一周して再び北側の最上階。同じくデータが欠けた部分を手動にて処理。(約30枚)

合成してみないと写真の写っていないところが分からないので、撮影時は充分に重なるように撮っていく必要がある。
同じく北側最上階の別位置から下を臨む(約30枚)

左側の手すりが途中で消えている。これは仕方ない。左側を撮影したときには手すりが写り込むが、下方向を撮影するためには当然ながらカメラが手すりを乗り越えないといけないからだ。このようにパノラマ写真は画像周辺部と近傍で破綻しやすいが、遠景ならほぼ問題ないだろう。
というわけで芸術写真よりも記録写真に興味がある自分としては、もう広角など必要ないというか、大きな景色を記録したいときにはパノラマにするに限ると思うのであった。
紹介した漏れが来ましたよ、と(笑
いやー、ほんまおもろいねパノラマ写真。
こういう時だけはフリーウェアがふんだんにある
窓PCがうらやましい。
作品まとめて写真集でも出したらどうか。
いまならパイオニアになれるんじゃ?