私はこのブログにはデザインとは関係のない個人的な事柄はできるだけ書かないようにしています。
しかし、今回はイレギュラーで自分の体験したことを記しておきます。
故郷の大阪で恩師の謝恩会があり、帰省いたしました。
そのパーティーはこれまで経験した中で最も暖かく、すばらしいものでした。師の人柄、参加した方々の気持ち、会を催してくださった実行委委員会の方々の労、すべてに感謝したいと思いです。
久しぶりに恩師や旧友と語らうことができ、とても幸せな時間を過ごすことができました。
ところが次の日、私はこれとは真逆の、これまた人生で最も大変な事態に対処するはめになり、心が擦り切れてしまうことになったのでした。(それはちょっとここでは書けるようなことではないし、このトピックとは関係がないのでご容赦くださいまし。)
私は疲れ切って荒んだ気持ちを抱えたまま、一人新幹線に乗り、岐路につきました。
前日、ほとんど眠ることができなかったので、新幹線の中で居眠りでもしようと座席を倒したのですが、しばらくすると近くから猫の鳴き声がしてきたのです。バスケットで猫を運んでいる人がいたのです。
意外に大きな声で耳に付き、寝ることができません。私はイライラして、恥ずかしながら、荒れた気持ちにまかせて、飼い主に罵詈讒謗を浴びせてやろうかと思いました。
しかし、その思いを心の中で弄んでいるうちに、いつの間にか一つのストーリーが形づくられていったのです。
デザインとは関係ないし、月並みで恥ずかしいのですが、そのお話しをここに記します。もちろん、フィクションです。
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『ネコの声』
関西での出張が終わり、私は東京への帰路についた。
新幹線の指定席に座り、シートを倒すと、仕事先でのトラブルであたふたしたせいか、一気に疲れが込み上げてくる思いがした。
買った雑誌を読む気にもならず、沸き上がる眠気にまどろんでいると、後ろの座席から猫の鳴き声が聞こえてきたのだった。
そう言えば、自分の前に並んでいた若い女性が、新幹線には不似合いなバスケットのようなものを下げていたのを思い出した。猫を運ぶためのものだったらしい。たしか、別料金を支払えば、小動物を載せることができるのだ。
猫はゆれる車内に不安をおぼえるのか、ときどき、ナーナーと鳴き出す。それがまた、けっこうあたりに響くような大きな声で、気になるのだった。その度に女性は小声であやすのだが、なかなか収らない。
そのうち、眠りを邪魔されているようで、かなり自分でもイライラしてくるのが分かった。座席は8割方埋まっていて、なんとなくその場の空気も同じ雰囲気を漂わせているように感じた。
少しなんとか静かにできませんかね、と、よっぽど注意してみようかなと思ったそのとき、後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。
「あー、うるさくて寝られへんやろ!かなわんな。」どうやら女性の隣の席の客らしい。
中年男性の声が響く。
「ほんまに、もう、猫なんか堪忍やで!ちょっとははた迷惑も考えーな。こっちは指定払ってんねんで。自由席でも行ったらどないやねん!」
私は思わず立ち上がって後ろを覗き込み、その中年男性に向かってこう言っていた。
「まあ、そんなに言うことないじゃないですか。小さなペットのことだし、仕方ありませんよ。この方もその分、料金を払って乗っているわけでしょう?大人気ない。」
どこかで「そうだ!」という小さな声がした。後押しされたようで心強かった。女性は肩をすぼめてうつむいていた。それがまた気の毒になった。
中年のおっさんは、「ふん!」と鼻を鳴らして、バツが悪そうにそっぽを向き、目を閉じて寝たふりをした。私は上目遣いの女性に小さな会釈をして座り直した。
それからも思い出したように猫は鳴き出して、そのたびにしばらく耳障りだったが、私は小さな正義を成したことにちょっと満足して、中年おやじのふてくされた顔を思い出してはほくそ笑んでいた。
東京駅に着いて、手荷物をまとめ、人の列が途切れるのを待って外へ出た。
そうすると、ホームの先に意外な光景を発見したのだった。
先ほどの中年男性と猫のかごを持った女性が、互いに笑顔でお辞儀をし合っているではないか。男性は猫のかごにさえ、頬ずりせんばかりに笑いかけている。やがて二人はまた互いに頭を下げあいながら別々に改札への道を進んでいった。
中年男性が離れていったので、私はあわてて女性のもとに駆け寄った。女性は私の顔を見て、はっとしたような表情を浮かべ、深々と頭を下げた。
「あの、先ほどはどうも・・・。えーと、ちょっとすみませんけど、あのおじさん、今、あなたに謝っておられたのですか?」私は尋ねた。
すると女性は少しばつが悪そうな顔をして手荷物から一枚の小さな紙切れを取り出して、私に差し出したのだった。
そこにはボールペンの殴り書きで、こう書いてあった。
「今から私がちょっと口ぎたなくネコのことで文句いいますけど、かんべんしてくださいね。わたし、ネコちゃん大好きなんですよ!」
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ま、ありきたりな落ちですわ(笑)。お粗末さまでした。
しかし、実際の体験からこんな話しが生まれた状況がなんだか愉快で、私は新幹線の中で忘れないうちに話をメモしながら、うるさいネコに出会えたことを「ラッキー!」と思えるほどになっていました(笑)。(そう言えば、誰かが書いていたような気がします。どんな悪いことも「ブログのネタになる!」と思えばかなりゆるせると(笑))
まったく勝手なものです。「えー話しやないか(涙)」と言わせたいわけではなくて、なんか大変な状況やマイナスな気持ちも、ふと視点が変わるだけで、たしかに受けとめ様が変わることもあるものだ、と、そんな経験をした、ということです。
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