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「天使と悪魔」とCERN

今回もややネタバレ注意です。


ダン・ブラウン原作のハリウッド映画、『 天使と悪魔』がもうすぐ公開される。

映画では同作者の『ダ・ヴィンチ・コード』の続編のような形になってしまったが、原作では主人公ロバート・ラングトンが登場するシリーズ1作目となっている。(個人的には妙に髪型が気になるトム・ハンクスより、も少し新鮮なキャスティングをしてほしかったと思う。)

4,5年前にダ・ヴィンチ・コードよりも先に原作を読んだが、SF仕立てのサスペンスものとして楽しく読めた。まさに巻置く能わずで、徹夜で読んだと記憶している。作者の宗教・芸術・科学における博識はすさまじく、「ほとんど事実に基づいている」という後書きを読んで驚いたものだ。小説のテンポは続編のダ・ヴィンチ・コードよりよかったのではと思う。

しかしながら明らかにいくつか科学的事実に誤りというか、フィクションがある、と思っていた。例えば「反物質」を空中に保持し、カプセルに閉じこめて保管するなど(現時点で)できる筈なかろー、と。

さて、てなわけで物語中、重要なアイテムとなるのがCERN(欧州原子核研究機構)で実際に実験が行われ、生成されたとしている「反物質」なのだ。

「トレッキー」なら「反物質はエンタープライズの動力源で、ワープコアになんたらかんたら・・・」などと言い出しそうだが、SF上の話というだけではなく、実際に生成に成功している。ただし、事実は「反水素原子」約10個とのことで、小説にあるように1/4gもの反物質を生成するためには「宇宙の年齢(137億年)でも足りないくらい」とのこと。

という情報はもちろん、受け売りだ。驚いたことにCERNで反物質の研究をしているチームのリーダーは日本人で、その当事者の早野龍五氏自身が『物理学者とともに読む「天使と悪魔」の虚と実 50のポイント』というページで詳細な解説を行っておられるのでした。(←このサイトもネタバレ注意)


さて、CERNと言えば、昨年、LHC(Large Hadron Collider 大型ハドロン衝突型加速器)の稼働で話題となった。




陽子ビームを衝突させる実験の中で「マイクロブラックホール」が生成される可能性があるとのことで、SFファンの間では「世界の終わりがくる」んじゃないかと大騒ぎに(笑)。




結局、実験はいろいろな故障により、今年になるとか2010年になるとか遅れが生じている。イギリスのブックメーカーはLHCで「神の粒子(ヒッグス粒子)」が見つかるかどうかを賭博の対象にしているし、最近では「天才女子大生、設計図を見ただけでLHCの論理設計ミスをピタリと指摘」なんてニュースまであった。


CERN LHC関連の記事 (technobahn)


LHCアトラス実験(ATLAS JAPAN)



さてさて、LHCの実験で何が起こるかは、神の味噌汁なのだが、確か、私の記憶では、A.C.クラークが『3001年終局への旅』の中で不気味な予言をしておったよーな、と。

これは『2001年宇宙の旅』シリーズの最終話で、HAL9000の反乱によって宇宙へ放出された乗員フランク・プールが31世紀になって仮死状態で漂流しているところを発見され、蘇生するシーンから物語りが始まる。

たしか、1000年後の世界では人々は空間自体に内在するエネルギーを取り出して無限に利用できるようになっている、というような設定だった。この中で、文明の進化の過程において文明が絶滅する危機が二つあると述べられる。一つが核エネルギーの利用で、もう一つが空間エネルギーの利用だ、というようなことであったかと思う。LHCの実験はまさに後者の端緒たらんとするものかもしれない。

もちろん、とんでもないことは起こらないと信じているが、科学者ってのは結構無責任なところがあって、往々にして結果見たさにリスクに眼をつぶることの多い人種だと思う。最初の核実験の際にも、科学者の中には核分裂反応が他の元素に飛び火して、地球自体が消滅するのでは、と危惧するむきもあったとか・・・。




LHCは今のところ、いろいろな不具合が顕わとなっているようだが、そのようなことはさもありなん、なのだ。なにしろ、その超巨大な設備と言ったら!

下記のリンク先には様々なLHCの写真が掲載されている。メカファン、工場萌えの人には堪りませんで。(10,11枚目の写真はVRフォトになっていて360°グリグリ回転、拡大縮小して楽しめる。音声まで入っていて臨場感があり、すばらしいのだけれど、パワー不足のPCではフリーズする恐れがあるのでご注意。)

Time Machine: CERN's Large Hadron Collider
(darkroastedblend)



LHCは直径27kmもあるリングの中をエンジニア達が自転車で移動したり、衝突点は地下100メートル、6階建てのビルに相当するほど巨大な設備だ。

巨大なシステムは確率的に破綻するリスクが高い。例えば不良率が1%の部品100個で構成されたシステムは、単純な話、常に100%不良品となる。もちろん、歩留まりはこんな大きな数字であるはずもないのだが、何万、何十万という部品から構成される巨大システムは、常に品質上の作り込みのリスクを負うことになる。

これは部品レベルの話だけではなく、設計・製造・運用等、すべてのフェイズで関わってくることなのだ。ものづくりの世界では、技術者たちは品質管理手法を発展させて品質レベルの押さえ込みをしてきた涙ぐましい歴史があるのだが、巨大なシステムになればなるほど、一人の人間が全てを把握し、責任を持つことは、事実上不可能になってくる。原子炉やスペースシャトルの事故を見てもあきらかだろう。
もちろん、そういうものを乗り越えて技術は発展するという側面もあるのだが、大きなシステムでは破綻時の犠牲も往々にしてでかくなるものだ。

国際政治、世界経済や地球環境さえ一つのシステムと見なした場合、破綻したときに何を代償とすることになるか、なんかあんまり学習していないような気もするのだが・・・と、今回はシリアスバージョンで終了。






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2件のコメント

[C350] 変換ミス

神の味噌汁 (←神のみぞ知る)

すみません。小さなところをほじって。ちょっとツボだったので(笑)
  • 2009-05-30
  • ピーコ
  • URL
  • 編集

[C351] Re:変換ミス

あはは、突っ込んでいただいて、ありがとうございます。オヤジギャグなんでスルーされてました(笑)
  • 2009-05-31
  • horirium
  • URL
  • 編集

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