以前、何かのアンケートの折りに、岡屋㈱の「ペグシル(pegcil)」を貰った。

最初にこの製品に出会ったのはもう10年以上前のことである。実際、この商品は発売以来30年近くになるとのこと。
で、メーカーには申し訳ないが、最初に見たときからよくこんな使い捨て商品を作るな、といい気分がしなかった。ワンガリ・マータイさんならずとも「もったいなーい!」と叫びたくなる。
なんせ、ちょっとアンケートなどを書いて、先が2mmも減れば、あとは捨てられるだけなのだから。
もともと岡屋はゴルフ用品関係のメーカーで、ペグシルもスコア記入用にゴルフ場から広まったようである。
ゴルフと言えば、成田から飛行機で離陸するときに下を見て、無残に野山のあちこちが食い荒らされているのに驚愕したことがある。それはすべてゴルフ場だった。
「NASA World Wind」や「google earth」を入れている人は見てみるといい。
例えば千葉県では全国で3番目に多い150箇所以上ものゴルフ場がある。
(もちろん150ホールではない)最近は法律で農薬の使用が制限されているとはいえ、とてもじゃないが環境にやさしいとは言えまい。
ゴルフというスポーツが悪いというのではないが、常軌を逸しているのではと。
さて、ペグシルの実勢価格を調べようとしてググッてみたら興味深い記事がヒットした。
平成12年に商標権の行政訴訟事件になっているのだ。
かいつまんでいうと、岡屋㈱がペグシルそれ自体を「立体商標」として登録しようとしたところ、拒絶査定されたので、不服の審判請求をした。しかしてこの請求は結局、棄却されることになった。
「立体商標」とは何かというと、いろいろな会社のロゴやマークは印刷するための平面の意匠として「商標」の登録を受けるのが通常だが、「立体」の形状として特徴あるものが登録される場合がある。例えば、不二家の店頭にある「ペコちゃん」の人形が分かりやすい例だ。つまりペコちゃんの複製を作ってかってに販売すると商標権の侵害となる。
なぜ岡屋がペグシルを立体商標にしたかったというと、まあ、簡単に想像できるのは製作当初の「特許」なり「実用新案」の権利が切れたからだろう。(もともと登録してなかったかもしれないが。)
現行法では特許でもその権利は20年で満了する。それ以降はだれが製造してもよいということ。岡屋のHPでは「オリジナルメーカーならではの高い品質」とあるが、芯のインサート成形に多少の技術的アドバンテージはあるにせよ、この品物自体はまあ、中国あたりでも十分に生産できるようなものだ。(実際、今や実勢価格は1,000個のロットで¥14/1ヶである。岡屋自体が中国生産しているのでは、と思う。)
さて、そこで他のメーカーに作らせないために、岡屋は考えた。「ペグシル」自体を「立体商標」にできればどこも真似できず、独占できる。なぜなら、知的財産権の中で唯一「商標」だけが無期限に権利の更新をできるからだ。
では、なぜ申請を却下されたかというと、簡単にいうと、ミニマルなクリップ付きの成形一体式の筆記具を作ると誰が作ってもこの形に近くなるから、ということなのである。特許庁の不登録事由の説明では、『「機能を確保するために不可欠な立体的形状」の例としては、「丸くせざるを得ない自動車のタイヤ」、「球の形状にせざるを得ない野球用のボール」など当該商品と同種の商品を製造・販売するためには必ず採らざるを得ない形状・・』とある。
そんなわけで、請求を棄却したこの判決は、権利の存続期間以降は産業全体の発展のために技術を開放するという特許法の趣旨からいってもすごく当然のことであると思う。
前説だけでおもいきり長くなってしまった(汗)。今回のテーマはペグシルの改造である。
芯が減ったら捨てるしかないペグシルの芯を交換できるようにしてみよう。
まずはペンチでそっと芯を挟んでゆっくりと回してみる。そうすると簡単に動いた。そっと引っ張るとうまく芯が出た。わりと簡単・・・と思ったら、えらい失敗をした。どれくらいインサートされていたのか計ってみようと思って再度差し込んだら、根元からポッキリ折れてしまった!こうなるともう、取り出すのは大変。(「ターミネーター2」で、かあちゃんが鍵穴に鍵を差し込んで折ったシーンを思い出した。)
なんとかドリル(ピンバイス)で穿り出す。
芯が埋め込まれていた深さは約5.5mmだった。そこで端からだいたい5mmあたりを狙ってピンバイスで穴を開ける。手元にあったドリルの径は1.4mm。穴が貫通したら、端っこに向けてカッターで溝を切り込む。

そんなわけでこんな万年筆みたいな形になった。ピンバイスなど誰もが持っているわけではないだろうからこの穴は不要かもしれない。一応、カットした溝がそれ以上割れないようにするために開けたのである。

削った「芯」を差し込んでみるとちょうどいいフィット感である。芯を抜くときも指で簡単に抜ける。
さて、肝心の書き味は・・・筆圧で溝が開いてふにゃふにゃした感じになるかと懸念していたが、全く以前と遜色がない。よほど強い筆圧で書かない限りは大丈夫だろう。
鉛筆の芯だが、短くなった鉛筆をペンチで割ると簡単に手に入る。粉々にしないためには多少コツがいるが。鉛筆の木の部分は両側から張り合わせてあるので、まず張り合わせた線を少しずつ潰していき、芯が浮いたころあいで、片側を集中的に砕いていく。(本当は「万力」で挟むと簡単に割れるが、さすがに万力までは持っていない。)どうも上等の鉛筆ほど芯が外れにくい気がする。子どものころ鉛筆を使っていて、よく芯が引っ込んだものだ(笑)。上等の鉛筆はよい接着剤を使っているようでしっかりと木部にくっついている。


さて、またまた余談だが、CADが普及するまで設計者はドラフタ-などを使っていたわけだけど、このとき、設計者はそれぞれ愛着のある鉛筆やシャープペンを使用していた。
で、おそらくほとんどの人は、0.3mmの製図用シャープペンを使っていたと思うが、もう一つ「芯ホルダー」を使う流派?もあった。
これは随分前に使っていた芯と芯ホルダー、研芯器。

こんな風に芯だけでも文具店で売っている(今でもあるかな?)のであるが、鉛筆からはずした芯をホルダーで使えばかなり最後まで使えるというわけ。また、今回のようにペグシルを再生しようとすれば、ホルダーと研芯器がないと削りにくい。
しかしながら、こんな面倒なことをお勧めしているわけではないのです。要は、こんな溝ぐらい金型で簡単に入れられるのだから、最初からメーカーがそういう仕様にするべきだと思うわけ。で、多少、費用がかかろうが、アンケートのあとでペグシルを回収して芯を交換すればいいと思う。
てな訳で、今回は実際の実用度を見るための、いわば実証実験。リサイクル仕様のペグシルは十分可能という結論なのでした。
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