某SNSの文具サイトで話題に上がっていた低価格の万年筆を買った。
PILOTから出ている「Petit1(ペチットワン)」。

全長ほぼ10cmのプラスチック製万年筆。ペン先はステンレス製。
さて、お値段はいくらだと思いますか?なんと税込み¥315。最初からインクカートリッジが1本装着されています。(別売のカートリッジは3本で¥105)
この価格といい、小さなスタイルといい、12色そろってカラフルな展示がなされていることといい、いかにも普段万年筆などとは無縁の、女子中高生をターゲットとした戦略商品、とマーケティング的には分かりやすいのだけど・・・。
実際によく見てみると、かわいらしいのは大きさだけで、中のメカニズムをみせたり、外は丸いのに内側に面を取っていたり(これは機能的要請なのかどうか判然としないが)と、必ずしも「かわいらしさ」を追求したデザインではなさそうだ。むしろ、スケルトンにしてうまくインクの色とマッチさせ、「スタイリッシュ」と言ってもいい。
「スタイリング」としてはとても気に入ったのだが、使い勝手は流石によいとは言えない。
まず、この短さのため、使用時には必ずキャップを後ろに付けないといけない。このキャップを嵌めたときの「節度感」が全くないのだ。基本的に丸くフラットな表面形状なので、キャップは「摩擦」だけで嵌っているしかない。これが緩いと使っているうちにキャップがはずれてくる。さりとて、しっかりギュッと嵌めるとそのうちに、キャップの口が割れてくるのでは、と心配になる。傷も付いたりするのではないだろうか。
もう一つは軸を持つ指のところに段差がくるため、違和感が大きい。
いずれにしても長時間使うのには向きそうにない。ちょっとしたメモ書き用途なのだろうか。
ステンレス製のペン先の書き味はそこそこである。ただ、今回購入した2本を比べても、線の太さも紙との滑り感もかなり違う。この価格ではそこまで品質を統一できないだろうし、展示されているうちにお客さんが試し書きしたときに筆圧でペン先が開くということも有り得るだろう。
他には展示品はかなりキャップの中にインクが飛び散っているものが多かったので、気圧や温度の影響を受けやすいのかもしれない。
さて、いろいろ不満足な点を上げたが、シンプルなスタイルを貫いて、尚且つ書きやすくするための、ここから先の仕様(デザイン)は確かに容易ではない。
機能や価格までを「デザイン」の範疇とするトータルな意味では「Petit1」のデザインは、かなりギリギリのところで勝負していると言える。
一時の流行商品で終わらず、使い勝手を改善してこの分野が残ってほしいと思う。
そして、ある意味、その「解答」といえるのではないかと思うのが、ペリカンの「ペリカーノ・ジュニア」である。(商品としてはこちらの方が先で、随分前から販売されているようである。デザインもマイナーチェンジされている。)

軸は赤・黄・青・緑の4色で、インクカートリッジの色は7色。価格は¥1,200。
これは長さも十分だし、指の当たるところにも軟質樹脂が使用されており、ステンレス製のペン先もスムーズで書き味としては申し分ない。
写真では分からない微妙なカーブを持った軸も持ちやすさのためだろうか。
ポップな製品を作っても、押さえるべきところは押さえているのが、いかにもドイツ製品らしい。
キャップの金型にわずかな甘さがあるのと、写真の黄色い部分にインクが染み込むと汚れが取れないのが残念である。
パイロットの¥300という価格設定もインパクトがあるが、ペリカンの製品との距離を埋めて「カジュアルな万年筆」という分野を確立するために、ぜひとも価格以外のアプローチをしてほしい。
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