今回も番外編。以前使っていたもの。
引出の中から20年も放置されたままの「ロットリング」が出てきた。もちろん、ガチガチに固まっている(笑)
私が「プロの使う文房具」というときに一番最初に思い浮かべる筆記具だ。

「ロットリング/ROTRING」はとりわけ製図分野で定評のあるドイツの筆記具メーカー。特に一昔前のデザイナーにとっては、毛細管方式の製図ペンの代名詞でもあった。
Rotringロットリング - Wikipedia今みたいにパソコンが普及する前には、均一な太さの線が引けるこのペンは、製図や版下の分野に置いてはほぼ一択と言ってもよい道具だった。
黒いのがロットリングの「VARIANT」という機種。黄色いのはコクヨが代理店をしていた?当時の西ドイツ製の「ROTA GRAPH」という機種。
軸とタンクに互換性がある。どちらも既に生産されておらず、特に後者は検索しても探し切れなかった。
構造的には樹脂にインサート成形されたパイプの中に極細のニードルが通り、その間を顔料系のインクが流れるというもの。ニードルの根本はダイキャスト製(ROTA GRAPHはステンレス)の重りの中に埋め込まれており、インクフローを促すように、上下に微細動するようになっている。全てのパーツのセンターが正確に合わなければ破綻するような超精密な工業製品だ。

また、出て行ったインクの分の空気をいかに取り込むかというところに構造の妙があるようだ。

ネジの中に空気の通り道が設けられているが、rotring(上)とROTA GRAPHでは構造が違うのが分かる。
ネットで調べてみると今から60年前には既にこの形で生産されていたようだ。ドイツの物作りの精密さに驚かされる。
その構造ゆえや顔料系のインクを使用していることもあり、非常に詰まりやすいという弱点がある。0.1や0.2mmのペンなどは1週間も使わなければ詰まっていたように思う。
これほどメンテナンスが必要な筆記具もなかったが、手間よりも性能が優先されるプロの現場では実に重宝がられたのだ。
たしか、手入れをする場合でも、0.3mm以下のロットリングは分解しないように、と説明書に書いてあったように思う。それでも0.2mmまでは何とか分解、再組み立てできた。0.1mmはさすがに中のニードルも超極細で、手の感覚だけでパイプに突っ込もうとする際に、ヘタして折り曲げることがあった。高価な製品ゆえに泣くこととなる。
今回、水に1週間浸けてゆっくりインクを溶かし、洗浄してみたら、0.1mmまで全て回復した。ただ、ニードルの根本のダイキャストに白錆びが出るものがあったので、あまり長時間水に浸けるのは良くなかったかもしれない。ロットリングの専用洗浄剤もあって試してみたらただの水よりも遙かに洗浄能力が高かったので、細いものにはこちらを使った方がいいだろう。
ロットリングは、ペンを紙に垂直にあて、均一な線をドローイングするためだけの道具。文字の筆記などにはあまり適さない。細かい文字を書くために使っている人もいるようだが、ほぼ今は、精密イラストを描く方面以外には、あまり使用されていないのではないか、と思う。
現在はメンテナンスの不要な使い捨てタイプのものも販売されている。
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